Jon Courtenay Grimwood "Pashazade" ISBN:0743468333

ストロスのインタビューで触れられてた"Pashazade"、読んだ。
改変歴史物。第1次世界大戦でアメリカが参戦せず、同盟国側の勝利に終わる。その結果ドイツは強大な地位を保ち、いまだ帝政のまま健在。オスマン=トルコも崩壊するどころか勢力を拡大し続け、イギリスからエジプトを奪還、更にリビアチュニジアまで領土を回復し、ほとんどかつての最大版図を取り戻すところまでいってる様子。アラビア半島の石油も掌握し、ドイツ、アメリカと並んで21世紀の超大国の一角を占めている(共産圏はどうなってるかよくわからん)。そのオスマン帝国の文化的中心地として繁栄と退廃を極めるエル・イスカンドリア(アレクサンドリア)が舞台。
主人公のアシュラフ・ベイは彼の叔母と称する女の手でシアトルの刑務所から引き出される。その女の話では、アシュラフこそ実はパシャザード――チュニスのパシャの息子であるというのだ。アメリカで裏切り者として三合会に追われていたラフは女の誘いに応じ、エル・イスカンドリアに向かう。だが到着後数日で叔母は何者かに殺され、ラフは容疑者として追われることになる。出生の秘密と事件の真相を掴むためラフは捜査をはじめる。だがラフにはパシャザードであること以外にも数多くの秘密の過去があった・・・

SF要素はそんなに濃くないな。ガジェットレベルだ。ストロスの評、エフィンジャーについてはイスラーム+ハードボイルドってことで嫌でも連想するが、ニール・スティーブンスンうんぬんはちょっと違うんじゃないかな。この作品にはスティーブンスンの細部へのオタク的こだわりがない。SFガジェット、エキゾティズム、歴史的薀蓄などをちりばめつつ、全体にはハードボイルド・エンターテインメントとしてそつなくまとめてる感じだ。アシュラフの出生のすごい話もほのめかされる程度で終わるし。でも人物造形がよかったね。主人公のアシュラフもかっこいいんだが、全体的に女性がよく描かれていた。イスラームにおける女性がサブテーマにあるかと思えるぐらい。なかでもアシュラフの9歳の姪ハニがかわいい。子どもらしく生意気かつ傍若無人に振る舞いつつも(ほんとに生意気なんだよ)、少しづつラフになついてくるところとか。

続編がもう2つ出てるのか。読むかどうかは微妙だ。まあ一気に読み終えたぐらいだし面白かったんだが、いまひとつプッシュが足りない気がする。エフィンジャーのときみたいに「これは最高だから読め!」と言って友達に押しつけるほどではないんだな。