ピューリツァー賞の受賞作

アメリカのプロメテウスです

ピューリツァー賞の受賞作が発表されていた(参照)。ハリケーンカトリーナ関係が多い。自分が興味あるのをピックアップすると──

JOURNALISM

  • EXPLANATORY REPORTING Winner: Washington Post, David Finkel(参照

イエメンの民主化に取り組む米政府とNGOの試み(と挫折)についてのレポート。

  • BEAT REPORTING Winner: Washington Post, Dana Priest(参照

秘密の「ブラック・サイト」やその他合衆国政府の対テロ作戦における問題の多い題材の幅広いレポート。

CIAの国内秘密盗聴プログラムを暴き、対テロ戦争と市民的自由の境界をどこで引くべきか論争を巻き起こした。Risenの"State of War: The Secret History of C.I.A. and the Bush Administration"ISBN:0743270665リツァー賞を取るかも。
しかしなんだ、ちゃんと詳細を追っているわけではないからわからないのだが、この秘密盗聴ってニクソンのあれとどう違うんだ……? というかニクソン以後、国内秘密盗聴は法律で禁じられたんじゃなかったか?

個人的な危険を冒して、ダルフールのジェノサイドに焦点を当てた。前に書いたようにニコラス・クリストフはあんまり好きではない。親日か親中のどちらにせよ、オリエンタリズム的臭みの強い文章をよく書くからだ。しかしこのダルフールについての継続的な取り組みには脱帽せざるをえない。

Letters, Drama & Music

  • BIOGRAPHY OR AUTOBIOGRAPHY Winner: Kai Bird and Martin J. Sherwin,"American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer"ISBN:0375726268

アメリカのプロメテウス」ロバート・オッペンハイマー初の本格的な伝記。全米批評家協会賞も受賞している。Kai Birdはバンディ兄弟(ベスト&ブライテスト!)についての伝記("The Color of Truth"ISBN:0684856441)も書いている。
友だちがちょうど『ザ・フィフティーズ』ISBN:4102901698ころで、この本の話をしたらいたく興奮していた。「プロメテウスじゃあしょうがないな! オッピーはアメリカのプロメテウスか!」


「どうやら運命は、この闘いのなかで最も重い荷をきみに背負わすことに決めたらしい……もっとも、この荷を背負う者を誰か一人選べといわれたら、私もきみを選ばざるを得ないだろう。われわれの哲学と精神──そのためにこそ、われわれが生きているといえる哲学と精神──をすべて体現できるのは、きみをおいていったい誰がいるというのか。気分が沈んだときは、どうか我々のことを思いだしてくれ。君のすべての友は、いつまでもきみの友であり、きみを信頼しつづけることを……」
しかし、友人のすべてがそうではなかった。

アメリカの著名人のなかで、オッペンハイマーほどFBIに徹底的に盗聴され、尾行された人物は、恐らく皆無だったろう。彼に対する盗聴は、過去十四年にわたって実施されていた。言葉の切れ端のみが取り上げられ、その文脈はすべて無視された。自国のために彼が一身を捧げたロスアラモス時代の功績も、あらゆる意味で無視された。彼は袋小路に迷い込んだ気がした。十年前、公安審査官になぜ些細な嘘をついたのかと問われ、オッペンハイマーは答えた。「私が愚かだったからです」

  • GENERAL NON-FICTION Winner: Caroline Elkins,"Imperial Reckoning: The Untold Story of Britain's Gulag in Kenya"ISBN:0805080015

Caroline Elkinsはハーバード大歴史学助教授。本書が初めての著書。1950年代の数年間にイギリス統治下のケニアで発生したマウマウ団の反乱とその暴力的鎮圧(強制収容所、拷問など)を描き、情け深い植民地の統治者というイギリスのイメージに疑問符を付す。"London Review of Books"書評の文言を借りれば「ケニアは英国のアルジェリアだった」というわけ。ほとんど同日に出版され、同じ主題を扱っているDavid Andersonの"Histories of the Hanged: Britain’s Dirty War in Kenya and the End of Empire"ISBN:039332754Xされていることが多い。London Review of Booksの書評Guardianの書評

  • GENERAL NON-FICTION Finalist: George Packer,"The Assassins' Gate: America in Iraq"

正直、この本が受賞すると思っていた。戦争前のブッシュ政権の動きについて非常によくまとまっている。前に書評を訳した。ビング・ウェストの『ファルージャ 栄光なき死闘』ISBN:4152087013、こっちを訳してほしかった。たぶん『ファルージャ』のほうが固定客を見込めるんだろうが。