イアン・ワトスン『エンベディング』ISBN:4336045674

イギリスの病院で繰り広げられる人工言語の人体実験。アマゾン奥地の部族がドラッグによる恍惚の中で用いる奇怪な言語。そして突如訪問した異星人。この3つのプロットが言語を軸に絡まりあい、奇怪な言語理論が展開される……
以下、ネタバレを含む。
言語学SFというと「スーパー言語でスーパーマンに!」といった感じの作品*1が多いので、『エンベディング』にも一抹の不安を覚えてはいたが、「『エンベディング』ってタイトルからしチョムスキーは踏まえてるわけだし、大丈夫だよな」と考えたが、大丈夫どころではなかった! 上の危惧は注を含めて当たってたよ。チョムスキー、普遍文法、いやサピア=ウォーフ説さえ、こっちを騙くらかすための煙幕*2でしかないのだ。で、「埋め込み」は何の関係があるのかって? それは文に文が埋め込まれているように、認識者は世界に「埋め込まれている」。だから(だから?)言語のあらゆる埋め込みの形態(=あらゆる世界認識)を網羅することにより、世界のこの現実から逃れることができるのだ! 何を言ってるかさっぱりわからん! 知的な意匠に騙されるな、これもワイドスクリーンバロック、それもしょぼけた悲観主義者のワイドスクリーンバロックだ!

しかしイアン・ワトスン、よくこんなこと考えるな。『スローバード』も探してみよう。短編は(普通の意味で)すばらしいと山形浩生も解説で褒めてたしな。

*1:特にワイドスクリーンバロックには超言語への偏愛がある。

*2:だって言語によって現実認識どころか現実まで変わるんだもの。