柴田元幸編『夜の姉妹団』ISBN:4022642726

最初の4つの短編にまったく引っかかるところがなかったので「やはり自分には柴田元幸とか合わないのかな……」と落胆したが、ジョン・クロウリー「古代の遺物」から個人的に面白く感じられる作品が最後まで続き一安心。
白眉はラッセル・ホーバン*1の「匕首をもった男」。ボルヘスの短編「南部」(『伝奇集』ISBN:4003279212)の主人公ダールマンと「話をしてみたいから」フィクションの世界に入っていく語り手。このポストモダン小説の冗談みたいな設定が、語り手の人生の個人的な蹉跌と結びつけられ、夢の必然性ともいうべき展開をみせる。この部分はまた「南部」のテーマ、あるいはボルヘスのマチズモへの解説とも考えてもいい。そしてついにおとずれるダールマンとの邂逅。いや、この短編を読めただけでも十分元は取れた*2

*1:ここを参照するとなんとも多才な人だね。『ボアズ=ヤキンのライオン』の著者は彼だったか。高校のころ幻想文学に凝っていたとき探したが、見つからなかったんだったっけ。

*2:しかしある種『ファイトクラブ』的な、否定されたマチズモの回帰というか、そういう類のテーマが個人的な琴線に触れただけかもしれない。