ビーイング・マイケル・イグナティエフ

サマンサ・パワーの"A Problem from Hell"の翻訳出版がもう1年近く遅れており、友人がブツブツ文句を言っているので、「イグナティエフでも読んでみたら」と勧めてみた。イグナティエフをハーバード・ケネディ行政大学院のカー人権政策センター(the Carr Center of Human Rights Policy)に招聘したのはパワーだった。ともあれ、イグナティエフとパワーの親近性はそうしたトリヴィアルな点に留まらない。両者は“人道的介入主義者”という点で共通している。
冷戦終結後の世界では、各地で内戦や紛争が噴きだし、“人道的危機”が頻発した。国連や西側の新しい役割を模索していた知識人たちは、人道的危機に際しては国連、場合によってはアメリカ・ヨーロッパなどのリベラル・デモクラシーが軍事的に介入し、重大な人権侵害から住民を守るべきだとする人道的介入論を展開した。「ブッシュの“有用な間抜け”」トニー・ジャットが名を挙げている者たちは、これら人道介入主義のスターたちと相当部分重なる。
こうした人道的介入主義のベスト・アンド・ブライテストたちが総じてイラク戦争に賛成したというのは、やはり驚くべきことに思える。チョムスキー的な外交政策の見方をすれば、こうした者たちは西側の外交的弁明屋、新アメリカ帝国主義の体裁のいい顔にすぎないというわけかもしれないが、自分はそうは思わない。だが、この点について自分は上手い説明をできないし、納得のいく語りを見たこともない。自分もある意味では人道的介入主義者と言えるので、この問題はずっと引っかかっている。*1
マイケル・イグナティエフはこれら人道介入主義者の頂点を占めていたといっても言い過ぎではないだろう。90年代精力的に執筆された著作とBBCのレポーターとしての仕事により、その名は世界的な知名度を得ている。書いたフィクションはブッカー賞にノミネートすらされた。
エントリのタイトルでリンクしたThe Glove and Mailの記事"Being Michael Ignatieff"は相当詳細なイグナティエフのプロファイル。イグナティエフは昨年カナダ自由党*2の党首に立候補したが、惜しくも2位に終わった。自由党は政権を何度も担当している党なので、イグナティエフが党首になっていれば、彼がカナダの首相になることもありえた。現在イグナティエフ自由党の副党首である。
マイケル・イグナティエフの著作については塩川伸明氏の「イグナティエフ『ヴァーチャル・ウォー――戦争とヒューマニズムの間』」が非常に有益である。

*1:一応書いておくと、サマンサ・パワーはイラク戦争に反対を表明していたようだ。

*2:カナダ最古の党の1つで、自分のごく乏しいカナダ政治の知識ではだいたい民主党に相当。もうちょっと古典的な意味でリベラルかも。