Iraq Study Group

共和党中間選挙で敗北、ラムズフェルドがついに辞任し、後任にロバート・ゲイツが就いた。ロバート・ゲイツイラク研究グループ(Iraq Study Group)のメンバーから国防長官に就いたということで、このグループの提案が今後のイラク政策のカギを握るのではないかと言われている。
イラク研究グループについて簡単に書いておく。イラク研究グループはベイカー委員会とも呼ばれる超党派的な諮問委員会で、イラク戦争について「独立した」評価と提案を行うことを目的としている。元国務長官ジェイムズ・ベイカー、元国務長官ローレンス・イーグルバーガーゲイツの後任)、元民主党上院議員リー・ハミルトン、元国防長官ウィリアム・ペリーが主なメンバーである(参照)。その経歴と性格からジェイムズ・ベイカーがグループを統轄しており、父ブッシュ流の「リアリスト」寄りの提案が期待されているようだ。
グループがどういう提案をするのか具体的な情報は出ていないが、グループの提案として有力視されている案の1つとして、イラン・シリアとの直接対話案がある。ブレア英首相はイラク研究グループとの会合を前に控えて、そうした提案を既に公にしている(参照)。
一見すると最も冒険的でないうえに“現実的”な方向なので、確かにそうかもしれないと思わせるところがある。"What to Do in Iraq: A Roundtable"で言えば、James Dobbinsに一番近い。
だが、実効性のある政策を狙っているなら、対話案は相当ラディカルな政策転換を意味している。

  1. イランの核開発に対する強硬姿勢をアメリカが引っこめる。
  2. イランからレバノンに至るシーア派の優越を黙認する。
  3. イラク国内のスンニ派と和解する道はほとんど閉ざされる。

ブレアは(1)と(2)では譲歩しない、つまりイランは核開発もヒズボラなどへの資金提供もやめなくてはならないと条件を付けているが、条件を付けられる立場にはないだろう。だいたいそんな条件なら、現在米英が採っている姿勢と事実上変わらないということになるので意味を成さない。また、核開発を辞めさせる代わりにアメリカが体制の保証やら経済関係の正常化やらのずっと大きなアメを用意する気があるとも考えられない。
まったく理解できないのは、イラク国内でシーア派だけが反抗しているわけではないのに、なぜシリアとイランしか(つまりシーア派が権力を握っている2ヶ国しか)名が挙がらないのかという点だ。イラクの隣国であるトルコとサウジ・アラビアも交えて周辺諸国の協力体制を築くという提案のほうが自然ではないか。スンニ派諸国はただでさえシーア派の伸長に神経を尖らせているのに、シーア派だけを注視していたらいい顔はしないだろう。
そもそも対話でイラク安定化という案がどういう理屈になっているのか正直わからない。それとも、最近の報道をみると米軍は対マフディー軍にかなりの努力を傾注している印象なので、安定の主要な障害はシーア派の反乱分子にあるという評価なのだろうか。イランが援助を引っこめれば、シーアの過激派(内務省に入り込んでいるマフディー軍やバドル旅団などの"Death Squad")の勢力が弱まって、正常な「イラク化」が可能になる……みたいな理屈なのか? このあたりを筋道立てて書いている記事は見あたらなかった。
追記。シリアについて書くの忘れてた。シリアはずっと交渉が容易だろうし、シリア-イラクの長い国境を封鎖しようとするのは理に適っているので見込みがありそうだ。