グレッグ・イーガン『万物理論』
読了。読み終わったら少々不満もあり(例によって広げた風呂敷の畳み方に不満)、少なくともSFアイデアの爆発力でいえば前2長編に及ばないとは思うが、イーガンの集大成的作品として目配りのきいた間口の広い作品になっている。小説としても前2作と比較すれば相当上手になっているので、初イーガンとしてもおすすめ。
暇がないのでパラパラ読み返しながら読んだとき思ったことを箇条書きで済ます。
- 開巻に掲げられた詩、なんか聞き覚えあるなあ(特に最後の連)、クレオール系?とか思ってたらエメ・セゼールかよ! イーガン勉強してるな。
- 《自発的自閉症者協会》と第一部の最後の場面は関連してるし、伏線なんだと思ってたが……
- 第一部は未来のテクノロジー順次紹介ということで『宇宙消失』の序盤と似ているけど、だいぶ書き方が上手くなった。
- 第二部は冒頭からイーガンの(と言っていいと思うが)政治的信条披瀝。オーストラリアに対する批判はこの後も散見される。
- 第二部を読むと「イーガンこそサイバーパンクの正統的後継者だ!」と言いたくなる(ま、言っても誰も喜ばないだろうが)。スターリング的。
- ある意味イーガンのトレードマークである珍カルトが続々出てまいりました!
- ここまで戯画的なフェニミストは現在でさえあんまりいないんじゃないかな。つうか話は全く変わるがジェンダーフリー云々って、『アンディー・ウォーホルを撃った女』のヴァレリー・ソラナスばりのラディカル・フェミニストが日本の教育界で隠然たる勢力を築いているって話だよな、あれほどの騒ぎを鑑みるに。控えめに言ってそんなことがありうるのか?
- 社会生物学はユートピアの基礎! ハハハ! ドーキンス読み終わった後の高校1年の俺か!?
- そしてテクノ解放主義。これもレッシグ流れで考えてたことだなあ。またp302の詩にも関連してTHE BELLAGIO DECLARATIONとか。
- 《エル・ニドの盗賊》の話は面白そうだ。"Chaff"読んでみようか。
- 《人間宇宙論者》の名前で大ネタが人間原理だとはわかったが……。
- 『万物理論』のテーマは社会科学系、自然科学系ひっくるめて、"representation"(それこそサイード的な)の問題として統一的に扱えるような気がするな。正直TOEについては何言ってるかわからないので適当だが。
- p284が今回一番笑ったところ。ハーメルンの笛吹きの衣装をまとったカール・ユングが!
- ケルアックの詩「もし三バカ大将が実在したら?」?? そんな詩があるの? ケルアックは『路上』以外よく知らない。
- 情報宇宙論の話がよくわからん(P422)。
- プレデターもびっくりのロボット兵器登場! こえぇ!
- やはりバイオ企業がステートレスを破壊しない理由はいかにも弱い。国際的非難なんかで思いとどまったりしないと思うんだけどな。やはりユートピアは崩壊しないと。
- 後半になるにつれ、しゃべることが無くなってきました。よくわからん。情報理論的TOEと物理学的TOEが統合?
- 主観的宇宙論への訣別の辞?とともに第4部終了。そのまま2度目の読了。やっぱ前2作と比較してリーダビリティが格段に良くなっているな。『順列都市』とか再読躊躇するもの(理論部分だけ読みたい)。