ジョン・ヴァーリイ『スチール・ビーチ』

面白いは面白い。文庫上下で1000pぐらいあるのを2日で読み終わるぐらいだし。ただ、ハイパーテクノロジーがガンガン出てくる割には登場人物が現代的というか、普通っぽすぎる。性別をいつでも自由に変更できたり、クローンを用意しておいて死んだあと復活できるとか、とんでもない話をしておきながら、それに見合ったフューチャーショックつうか認識の変容的なものをあんま感じないんだな。特に前者は人間がそういう問題をそれほどあっけらかんと片づけられるとは思えないし。・・・違うな。普通すぎるというより、人類が全体として物わかりが良すぎるというか、個人主義者のボヘミアンすぎると言ったらいいのか。そこはヴァーリイの魅力でもあるんだが、こういう直球勝負の未来史的SFだと別のものを期待してしまう。次から次へとおもしろアトラクションを回っているうちに読み終わってしまった気分だ。読んでる間は十二分に楽しいんだけど、「さてどんな話だったか?」と言われると返答に困る。個々のガジェットばかり記憶に残ってて。

やっぱヴァーリイは短編かなあ。短編は達人級。読んだのは相当前になるが「バガテル」、「ブルー・シャンペン」、「びっくりハウス効果」、「PRESS ENTER ■」あたりは今でもはっきり内容を思い出せる。短編集はどれ買っても損はない。強いていえば『ブルー・シャンペン』か。

あー、読み直してみると、手前勝手な期待をしておいてからくさしているだけのような気がしてきたな。しかし面白かったのに素直に最高といえない、このモゾモゾした感じはなんなんだろう。