Philip Zimbardo "The Lucifer Effect"ISBN:0812974441
スタンフォード監獄実験(参照)を行った心理学者フィリップ・ジンバードの著書。ジンバードが実験について総括的な本を書くのは本書がはじめて。だいたい本の前半分が監獄実験の詳細な経過を綴ったもので、後半分が実験の帰結といったところ。よくできた公式サイトもある。
実験があんな結果に終わったので、実験主任は大学から追放されたりしたんじゃないかとか漠然と思っていたが、ジンバードはアメリカ心理学協会の会長になるなど順調なキャリアを送ったようである。
ジンバードの執筆動機の1つとして、アブグレイブでの虐待・拷問と、事件の被告の1人のために専門家証人として証言したことがあるそうだ。ジンバードは虐待を可能にした状況を作った軍上層部の責任について述べたが、そうした意見はまったく容れられず、被告ら「腐ったリンゴ」個々人のみの責任とされたうえで判決が下されたことに失望と怒りを感じたという。
公式サイトにある本の概要から少し引用すると──
"The Lucifer Effect"って名前はどうかと思うが、スタンフォード監獄実験(とセットで語られるミルグラムの実験、本書に記述あり)については詳しく知りたかったので、ペーパーバックが出たら買うだろう。
『ルシファー・エフェクト』は人間の本性の性質について、根本的な疑問を提起する。平凡かつ人並みで、善人とすらいえる人々が悪の担い手と化すことが、どのようにして可能となるのか? 異例で常軌を逸した行動を理解しようとするさい、われわれは遺伝子や個性、性格のような内的な決定因にのみ注目するという誤りをしばしば冒す一方、行動の変化を引き起こす決定的な触媒となりうる外的な状況や、そのような状況を作りだし維持するシステムを無視しがちである。[...](実験について詳述したあと)スタンフォード監獄実験の教訓とメッセージの要点を述べるとともに、その倫理と広がりについて考える。つぎに、状況の力は一般に見積もられるより強力であり、個々人の性質を抑え込むこともあるという主張を確証するような、様々な学問領域の概念的貢献や研究結果を考察する。加えて、順応、権威への服従、ロールプレイング、非人間化、脱個人化、道徳的離脱などの古典的研究と最新の研究について概説する。