ハル・アシュビー『さらば冬のかもめ』(1973)

レンタルビデオ屋で上のパッケージを目にして、ニコルソンの誘惑に抗しきれず借りた。アメリカン・ニューシネマという分類だったし、まあつまらなくはないだろうとは思っていたが、期待に違わぬロード・ムービーの佳作だった。
ジャック・ニコルソンは『チャイナタウン』(1974)・『カッコーの巣の上で』(1975)を控えた役者として最も脂ののった時期。脚本のロバート・タウンもフィルムノワールの傑作『チャイナタウン』で再びニコルソンと組み、脚本賞でオスカーを手にしている。監督のハル・アシュビーは代表作となると『シャンプー』・『チャンス』とかになるんだろうか。どちらも未見。
海軍下士官の“バッドアス”バダスキー(ニコルソン)は同僚の黒人下士官“ミュール”マルホール(オーティス・ヤング)とともに、8年の投獄と不名誉除隊が決まった18歳の水兵メドウス(ランディ・クエイド)の護送を命じられる。2、3日もあれば十分な任務に1週間の期限と給金を与えられた2人は、早いとこ水兵を引き渡して残りの時間を楽しく過ごそうという腹づもり。だが、バダスキーはメドウスにイライラしはじめる。隊長夫人の肝いりではじまった小児麻痺の募金箱に手をつけたために、メドウスは思わぬ重罪を課せられる羽目になったのだが、そのことを怒る様子も見せない。臆病な小心者、人生の楽しみ方ってもんがわかっちゃいないんだ……なら、俺が手ほどきをしてやろうじゃないか! 
はじめはバダスキーを抑えていた真面目なマルホールもいつのまにか調子をあわせ出す。ホテルでの痛飲、トイレでの乱闘、売春宿の一夜。徐々に心をほぐし、自己主張もできるようになっていくメドウス。だが、無情にも旅の終わりは近づいていく……。