現代アラブの社会思想 池内恵 ISBN:4061495887

買ってパラパラ見てみたが、後半の現代アラブの終末思想の解説はすごそう。そうした文書の1つのタイトルが、『偽救世主の出現が近づいた―――シオニズムとサタンの下僕がバミューダ・トライアングルから空飛ぶ円盤に乗った偽救世主ダッジャールを準備している』。タイトルからして何かが溢れだしてるが、表紙のパルプ感というか宗教パンフレット感(リンク先とはちょっと方向が違うが)の横溢した絵も実にいい。空飛ぶ円盤から白ローブの男がダビデの星が先端についた杖を手に降りてきて、4人の黒ローブの人物が出迎えている。後景にはダビデの星とUNの文字が刻まれた宮殿。カラーで見たくて検索してみたがこれしか見つからなかった(リンク先の話も終末論の問題を扱ってるっぽい、未読)。
追記。もうダッジャール(アンチキリスト)はバミューダにきてるらしい。バミューダ・トライアングルの異常現象は彼が原因。あとユダヤ人はエイリアンだと主張してる。
いや本自体は非常にまともです。これから読む。読む前の適当な雑感としては100年前のヨーロッパみたいだな、と。だから「イスラームの本質は・・・」うんぬんの話に傾きすぎてもしょうがないかな、という気はする。という気がするが、状況がそれを許さないかも。でもテロとの戦いに勝つとか負けるとか言ってる奴はなんか個人的に外してる感がある。あああ、この辺のポジショニングははっきりさせとかねば。
上のはほんと適当だった。感情的なアレを書いただけになってる。
読み終わった。もともと読み始めた理由として、自爆テロが理解できないというか、普通の戦術みたいになっててニュースでも当たり前の扱いで、そこが納得いかねえ、と思ってた点がある。同時に現代アラブ世界とイスラームについて全然十分な知識がないので、勉強するいい機会だと考えたのだ。
本書は大きく2部に分けられている。第1部が1967年の6日間戦争の敗北によりアラブ世界が陥った「危機」と、その打開策としての政治思想の展開。第2部は90年以後顕著な高まりを見せている終末思想について、セム的一神教の伝統とイスラームでの表現、その現代的な解釈の解説。
第1部は唸らされた。6日間戦争後のアラブ世界の苦境を前に、思想的には大きく2つに分極した。人民闘争的マルクス主義イスラーム回帰である。単純に言えば「左」と「右」だが、多分普通に考えるほどこの2つに距離はない、という気がする。まだ咀嚼しきれてないが、相当に啓発的な記述が多い。
第2部も面白いんだけど、あまりにぶっ飛んだ話なんで「フーン」というか、ちょっと違和感と疑問点があった。著者は『クルアーン』のテキストの性質から、「終末論の教義が日常的に確認される事項でありつづけて」(p156)おり、またムハンマドの言行伝承録である『ハディース集』を現代のアラブ人が紐解くたびに「このような切迫感を伴うハディースによって終末への懼れが蘇ってくるのである」(p215)という。現在の分析としてはそのとおりなんだろうが、文章を読むとイスラームが常に終末宗教であったように思わされる。でもそれは歴史的に見てどうなんかな?と疑問。それに『ハディース集』からマフディー、ダッジャール、イーサー(イエス)への言及を引用しているが、膨大な『ハディース集』のなかでこれらの事項は傍流に過ぎないだろうし、イスラームの教義的にもやはり傍流ではないのかな、とも思った。にもかかわらず中心教義のように誤解される危険が多いような書き方をしているように感じた。
いや現状分析としては記述の通りだと思うし、上の疑問だって著者は重々承知(か僕の勘違い)しているでしょう。でも例えばイスラームについてほとんど知識のない人がこれを手に取ったとき、勘違いするんではないかと思ったわけだ。いきなりこの本から入る人なんかいないかな? でも相当売れてるみたいだしな。
結論としては、本書がすばらしい本でマストリードなのは疑いないが、イスラーム1発目にこれを選んじゃまずい。まあ僕だってそんな知識はないんですが、同じ講談社現代新書の小杉秦『イスラームとは何か』ISBN:4061492101、記述も平明で、スタートとしてはいいんじゃないでしょうか。