2 Privatized Military History
いわゆる“傭兵”の歴史を略述。
まず古代から中世にかけて。エジプト、クセノポン『アナバシス』、カルタゴ(傭兵戦争)。中世イタリア(コンドッティエリ)、百年戦争と"Company"の誕生、ブリニエの戦い、スイスのパイク兵、ランツクネヒト。アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインの傭兵軍団。三十年戦争までの中世ヨーロッパは傭兵が他を圧する強い力を持っていたが、この戦争によってもたらされた荒廃(やその他の要因)が主権国家の誕生をもたらし、傭兵の時代を終わらせる。
国民による軍という存在が明確に姿を現したのがナポレオン戦争である。この変化の原因としては銃器テクノロジーの発展があげられる。クロスボウや初期の銃は訓練に時間を要したため、専門職の傭兵側に大きな利点があった。しかし、技術の発展によって扱いの比較的簡単な銃が登場し、兵士の技能より数が大きく物を言うようになったのだ。
こうして国民軍の優位が揺るぎないものとなったが、傭兵が歴史からすぐさま消えていったわけではない。例えば、アメリカ独立戦争ではイギリス側はヘッセン人傭兵を使っていた。また、オランダやイギリスの東インド会社などの特許会社は私設の軍隊を持ち、国家に匹敵、あるいはそれを凌駕する軍事力を誇っていた。あるいはローデシアやベルギー領コンゴ、モザンビークなども軍隊を持つ民間会社が支配していた。
だが20世紀までには特許会社も消滅し、非国家的軍事力の役割はごく限られたものとなっていた。ラテンアメリカ、中国、アフリカなどの国家の力が弱い地域では一定の影響力を持っていたにせよ、組織としては弱体で、“マッド”マイク・ホアーやボブ・デナールのようなカリスマ的個人に多くを負っていた。
こうした歴史の概観からわかるのは、武力の国家による独占は近現代の短い期間に限られた例外であるということだ。それまでの歴史においてはどの時代にも一定の傭兵勢力がおり、国家もその力に頼っていた。では、ここ数十年のうちに現れたPMFの特異な点とは何か?