セルジオ・レオーネ『ウエスタン』ASIN:B0000DBF9S

ジル(クラウディア・カルディナーレ)はアイルランド人の農場主のプロポーズを受け入れ、新生活をはじめるため西へ向かった。しかし、西部に降り立ったときにはすでに農場主一家は無法者フランク(ヘンリー・フォンダ)に皆殺しにされ、ジルは一家の死体と悲しい対面をする。フランク一味はさらにジルをも殺そうとするが、ハーモニカの男(チャールズ・ブロンソン)がこれを阻止する。この名も知れぬハーモニカを吹きならす男にはフランクとの間に何か深い因縁がある様子。さらに農場主虐殺の濡れ衣を着せられた無法者シャイアン(ジェイソン・ロバーツ)はジルに惹かれ、彼女の元にとどまるが……。
すげえ。完璧。参った。
まずキャストがすばらしい。ヘンリー・フォンダの非情な悪役ぶりは見事。時代の転換期に際し、生き様を変えようと行きつ戻りつしつつも結局は変わることのできない悪党を易々と演じ切っている。ハーモニカ吹き(このハーモニカのわけはクライマックスで明かされる)の寡黙なブロンソンは言うまでもなく最高。『さらば友よ』以上のブロンソンはもうないだろうと思っていたが、同等かそれ以上のかっこよさ。そしてジェイソン・ロバーツ。『続 夕陽のガンマン』でのイーライ・ウォラックのときも思ったけど、こういう愛嬌のある無法者にはかなわん。画面に出るだけで自然と顔がほころんでしまう。面構えの勝利。
脚本も特筆に値する。西部劇は人物造形が単純という印象があり、『続 夕陽のガンマン』も傑作だったにしろ、この印象は裏切られなかった。だが本作の人物造形と性格描写はかなり複雑で深みがある。この点はジルと、黒幕である鉄道王モートンの扱いに顕著だ。ジルは容易に陥りがちな"damsel in distress"、あるいはファム・ファタル的類型から一歩抜け出たキャラクター。またモートンについては、本作の原題は「かつて西部があった」であり、本作はいわば「終わりゆく西部へのレクイエム」といえる。そうした物語だということを考えると、新時代を代表するモートンは一面的な悪役として描かれていても不思議はないのだが、その種の単純化は周到に避けられている。
ダイアログも最高。いちいち挙げていくときりがないのでIMDbmemorable quotesを参照のこと。しかしこういった古典作は文句のつけようのない字幕が付いている部分と、会話の妙味をまったく伝えていない部分の差が激しいな。
──と、自分はいつも映画を“文学的”にみてしまうが、『ウエスタン』は何よりも絵の美しさがずば抜けている。もちろんモリコーネの音楽は言わずもがな。
しかしなあ、このあいだのアルドリッチのときも考えたが、こういう古典的名作を観ていけばとんでもない傑作がいくらでも発見できるんだろうな。面白いかつまらないかわからないような(たいていは期待はずれに終わる)最近の映画を見ている場合じゃないぜ、ほんと。
自分がある程度網羅的に観たと言えるのはアメリカン・ニューシネマだけで、あとは90年代中頃以降で評判のよい作品はけっこう観ていると思うけど、前者以前や二者の間の時期は見逃しがたくさんあるんだろうな。うーん、楽しみだ。