10 Contractual Dilemmas

この章以降はPMFの拡大が引き起こす様々な問題点が検討される。

この章では「契約上のジレンマ」を扱う。一般業種も含めたアウトソーシングに常につきまとう様々な問題点が、PMFの特殊性のためにより複雑になっているのだ。

業務をアウトソースする施主側-顧客と請負側には当然予測される緊張が存在する。施主側は請負側に最高の仕事を望むだろうが、請負側が第一に考えているのは利益である。請負側には顧客を犠牲にして利益を増やそうとする誘惑が常にある。それゆえ、一般的な民営化の重要な教訓の1つとして、請負業者を施主側が十分かつ独自な監視が大事だという点がある。そのほか、業務実行に関する明確で検証可能な基準、保証条項を伴う適切な支払い規定、明確な用語と条件を伴う面責条項、結果にたいする金銭面での適切な賞罰なども重要である。

PMFも上記の問題の例外ではない。だが、上にあげたどの点も守られていないのが現状だ。まず市場の構造からして十分な競争相手がいないため、市場競争が不十分であるばかりでなく、逸脱した業者に対する罰則も緩くなりがちだ。また、監視は最小限に留められ、仕事ぶりの評価基準も確立されていない。その上、業務自体が戦争の霧の中で行われるため、監視や前もっての見積もり、条件の設定が難しくなる。
こうしてPMFは適切な監視と評価がなされておらず、罰も受けないため、過大請求などの逸脱に対する歯止めがない。
PMFの業界でもアウトソーシングによる節約ということが喧伝される。軍事民営化を進めてきた米国国防科学会議は1990年代初め、最初の軍事外注化の流れにより、60億ドル以上の節約になったと言う。だが、そうした主張は裏付ける証拠はでていない。会計監査院は後にこの数字は少なくとも75%は過大だと報告した。

また、通常業務と安全保障活動、PMFと軍の重大な相違点も問題になる。戦況の悪化、経済状況の不安定化その他の理由からPMFが契約を完了せずに逃げ出すことはあり得るし、実際にそうしたことが起こってきた。また企業全体が逃げ出さなくとも、従業員が離脱し、業務の実行に支障が出るかもしれない。どちらの場合も民間人を軍法で裁くこともできず、別の請負業者が簡単かつ即座に見つかるわけでもない。
ここであげた問題点はほんの一部である。PMFが軍隊ではなく会社組織であり、市場のルールに従うことによる様々な複雑さと不確実性がこれに加わる。例えば倒産や合併、親会社が外国企業に乗っ取られる、PMFの株主の意向が施主側と対立した場合など。