マット・タイッビ「9/11陰謀論の望みゼロのバカさ加減」

けっこう前に翻訳は終わっていたが、「9/11陰謀(自作自演)論なんてもう下火だろし、趣味がいいとは言えない内容なのでしまっておこう」と考えていた。しかし、kikulog - 11th of Septemberでもこの記事について何度か触れられており、出すこともそれなりに意味がありそうなのでアップする。上で書いたようにけっこうどぎつい内容なので、9/11をこうしたネタにされると不快な人は見ないほうがいいかもしれない。
タイッビの理屈は陰謀論の原理的な否定ではない(それは不可能だ)が、普通の人間にとってはこれで十分のはずだ。他方で「科学的」検証の方向だってあるが、素人はもちろんのこと、物理学者らにとっても片手間で扱えるような内容ではない。陰謀論者はこの点を理解していないように思う。
また、言うまでもないが、9/11調査報告書やNIST、FEMAの報告書を批判することは陰謀論の肯定を意味しない。陰謀論系のサイトはわざとなのか、区別できないのか、この点を混同している*1
マット・タイッビについてはこのエントリを参照。前に別の記事を訳した。


9/11陰謀論の望みゼロのバカさ加減
By マット・タイッビ

 数週間前、9/11の5周年にコラムを書いたとき、自分は9/11陰謀論者を「臨床的にいって狂人」だとざっくり切り捨てた。ちょっとは熱のこもった反応を予期してはいたが、じっさいに受け取った洪水のような「ファック・ユー」メールには心の準備ができてなかった。どうやらアメリカの3分の1の人間は、ジョージ・ブッシュが9/11攻撃の背後にいると考えているらしい。

 「おまえも多国籍企業アメリカに金をもらってMSM*2でケツを売ってる左翼の門番野郎か」、と一人は書く。「おまえのやってるのはジャーナリズムなんかじゃぜんぜんないぞ、このカス」ともう一人は言う。「臨床的にいって狂人なのはおまえだ」と三人目は吠える。これを前口上として、各々がWTC-7の崩落に関して想定される物理学上の異常をお教えくださるのだ。

 〈9/11の真実〉運動については2つの不満が基本的にある。1つ目は現政権の批判者をあっさり片づける言い訳をブッシュ支持者に与えることだ。『ルース・チェンジ』一派のマヌケが口を開くたびに、どこかの共和党員が5票は得ているのは間違いない。じっさい、陰謀とやらがあるとすれば、この運動全体がカール・ローブの仕組んだ一種のネット向けの大衆挑発だというほうがずっとありそうだ。ゴードン・リディ*3反戦運動家のヒッピーを雇って、大統領選のレポーターが滞在しているホテルのロビーに小便をさせたのと同じ線だ。

 2つ目。この国の人間がティム・ラヘイ*4預言者で、シーン・ハニティ*5が客観的なニュースキャスターだと思ってるだけで十分ひどい。それなのに、たくさんの人間が9/11陰謀論を吐き出しもせずに飲み込めるっていうなら、希望は完全に失われる。望みうる最良のことは日本人が哀れをもよおして、彼らの未来帝国でスシ・ライスを作ったり、ロボットのおもちゃを組み立てたりする産業奴隷として使ってくれるくらいだ。

 ここでは十分なスペースがないため、9/11陰謀論がなぜ恥知らずなまでにバカげているか、すべての理由を逐一書いていくことはできない。だから、ただ1つのポイントで満足しよう。〈9/11の真実〉は陰謀論の形態として最低である。なぜなら、犯行の確認できる自説を提示しようとしないからだ。

 説明不能のビル火災、シャンクスヴィルの地表にできた奇妙な穴、ミステリアスな搭乗リストとかについてのインターネットの話は少しのあいだ忘れよう。〈9/11の真実〉運動にとって、犯行についての仮説はどういうものなのか?

 驚いたことに、この疑問にははっきりした答えはない。「エイブル・デンジャー」やグラウンド・ゼロで爆発音を聞いたという証言者に関して、たくさんの記事が書かれたのに、何が起こったか、誰が何を命じたか、いつそしてなぜ命じたのかについて、まとまりのある具体的な説を詳述した文書は──少なくとも自分が見たかぎりでは──1つとしてなかった。たしかに説はあるにはあるが、言外の意味や、9/11の言い伝え(タワーには爆薬が仕掛けられていた、ペンタゴンは本当は巡航ミサイルで攻撃された、などなど)の諸々の断定に注意を向けて、断片をつなぎ合わせ、1つのまとまった話を組み立てなくてはならない。だが、おかしなことに、別々の説をより集めて得られるのは、ロマン・ポランスキーの『パイレーツ』以来、最高に間の抜けた話なのだ。

 細部は異なるが、彼らが言うところの「何が起こったか」の要点は、だいたいこんな感じになる:

 〈アメリカ新世紀プロジェクト〉のような組織に代表されるディック・チェイニー、ポール・ウルフォウィッツその他に率いられた権力亡者のネオコンの一団は、"真珠湾級の事件"を引き起こし、右派革命を加速させ、アフガニスタンイラク侵攻の政治的根拠を整えようとしている。

 この議事堂火災シナリオの基本線は、ここまでのところ十分論理的だ。ただし、この筋書きのばあい、議事堂火災はとんでもなくこみいったメディア捏造になるんだが。陰謀家たちはワールド・トレード・センターを崩壊させ、一連のハイジャックをアルカイダとの繋がりがあるとされるスンニ派のグループのせいにしようと計画している。どうやってトレード・センターを崩壊させるのか? リモート・コントロールで航空機を飛ばすNORADの技術を利用して、実際に2機リモコン航空機を飛ばしてタワーに激突させる(別の説では、彼らはアルカイダのテロリストと共謀して、実際に飛行機をハイジャックする)のだ。そして衝突したのは商用旅客機だったとメディアでは通す。だが、建物を崩落させるのは航空機の衝突ではなく、タワーに仕掛けられた爆弾が目的を達する。

 ついでに──どうやらハイジャックの筋書きに信憑性を付け加えるためのようだが──ペンタゴンでハイジャック/衝突をもうひとつでっちあげる。だが、実際にはペンタゴンでは旅客機の衝突など起こらず、巡航ミサイル攻撃によって穴が空けられる。ミサイルは謎の「白いジェット機」から発射され、ジェットは攻撃後ホワイトハウス上空を少しのあいだ周回してシークレット・サービスの注意を引き、彼らは好奇心に駆られ地上から機を指さす(どうやらこのシークレット・サービスは計画に加わっていないようだ。グラウンドゼロやシャンクスヴィルその他の現場にいたFBIエージェントは加わっているが)。

 最後に、やはりこれもどうやらハイジャックの作り話に重みを与えるためのようだが、ペンシルヴァニアの地面にでっかい穴をあけ、ジェット機がそこに落ちたと主張する。このジェットは虚構の勇敢な民間人たちが虚構の操縦室に虚構の突入をしたおかげで墜落する。この虚構のヒーローの現実の妻であるリサ・ビーマーは、彼女の死んだ夫に向けて説得力のある讃歌/回想録を寄せ、ハイジャックのすじに相当の真実味を付け加える。すばらしい人たちだった!

 では、ブッシュ、ラミー、チェイニーがこの計画のために集まったとき、どんな話が展開したか想像してみよう──

ブッシュ:どんな計画だったか、もう一回いいかな?

チェイニー:ええっと、われわれはイラクアフガニスタンに侵攻する必要があります。そこで、リモートコントロールされた飛行機をウォール街ペンタゴンに突っ込ませて、本物のハイジャックされた旅客機だと言って、タオル頭のせいにするんです。ついで建物をこっちで爆破し、ちゃんと倒壊するように念を押します。

ラムズフェルド:そうそう! それにハイジャッカーの何人かはサダム・フセインのエージェントになるよう手配しないとな。そうすれば、国民にイラク侵攻を受け入れさせるとき何の問題もないはずだ。

チェイニー:いや、ドン。だめだよ。

ラムズフェルド:だめ?

チェイニー:うん。それじゃ露骨すぎる。ハイジャッカーはアルカイダにして、イラクとの繋がりをほのめかそう。

ラムズフェルド:でも、何もかもでっちあげるなら、単にサダムの指紋を残しておけばいいじゃないか?

チェイニー:(ため息をついて)こうやる以外ないんだよ、ドン。賭け金を釣りあげろってやつだ。こうすれば、イラクで事態がまずくなっても自分たちを弁護しようがない。侵攻を一発できっちりやるインセンティブになるだろ。

ブッシュ:私は字も読めるか読めないかのまったくのまぬけだから、それに乗るよ。でも1つ疑問がある。そもそもなんでタワーに飛行機を突っ込ませる必要があるんだ? あのビルをテロリストが1度爆破しようとしたのはみんな知ってるんだから、単に計画通り爆破して、テロリストのせいにすればいいじゃないか?

ラムズフェルド:大統領、分かってませんな。攻撃の前にわれわれ自身で建物に忍び込んで、爆弾を設置してから、爆発する飛行機が建物を倒壊させたと見せかけるほうがずっといいでしょうが。こうすれば、計画にもっと多くの人間が係わることになって、暴露の危険はかなり増すし、無意味に事態は複雑になるんですよ!

チェイニー:もちろん、ツインタワーを倒壊させるだけじゃまったく十分ではありません。タワーを吹っ飛ばすだけじゃ必要な戦争許可は誰もくれないでしょう。ペンタゴンの一角にミサイルを撃ち込んで、国際テロリズムの新たなシンボル──まあ、宣伝や公表は十分にはしないわけですが──を作り出す必要があるのは明白でしょう。次いで、ペンシルヴァニアのど田舎で、飛行機墜落を偽装する必要があるのも明らかです。

ラムズフェルド:まったくだ。クソど田舎で墜落がなきゃ、国民の怒りは十分なレベルに達しないにちがいない。

チェイニー:それでペンタゴンの衝突ですが、これは真っ昼間に実行して、飛行機だったと言わなくてはなりません。もっとも、実際には巡航ミサイルなんですが。

ブッシュ:待ってくれ。どうしてミサイルを使う必要があるんだ?

チェイニー:ミサイルを発射して、そのミサイルを飛行機だと言うほうがずっと簡単だからです。本物の旅客機をペンタゴンに突っ込ませるのは簡単じゃないんですよ。飛行機を手に入れるのは難しいんです。

ブッシュ:でも、飛行機を2機ツインタワーで使うんじゃないのか?

チェイニー:大統領、肝心なところがわかってませんね。ペンタゴンで、ミサイルを使って、飛行機だったと言うんです。

ブッシュ:そうなんだが、私が言いたいのは、なぜ飛行機を使って、あれは飛行機だったといわないのかってことだ。ツインタワーではそうするんだよな?

チェイニー:そうですが、こっちではミサイルを使うんですよ。(いらいらして)ドン、手を貸してくれないか?

ラムズフェルド:大統領、ワシントンではミサイルを使います。そうしたほうがこっそりやれますから。飛行機を使うなんて見えすきすぎてます。まあ、ニューヨークではそうするんですがね。

ブッシュ:うーん、わかった。

ラムズフェルド:旅客機だったと言うことの利点はほかにもあります。そう言えば、数百人の架空の犠牲者や、存在しない行方不明の搭乗員や飛行機について説明をこしらえなくてはなりません。でっちあげなければならない作り話、手間の掛かる仕事、捜査の対象になりかねない穴を残したほうがいいんです。疑惑、手間仕事、露見の可能性──こういうのがなきゃ、まともな陰謀はやりとげられませんからね。

ブッシュ:おまえたちは最高だ! アメリカ人についてはっきりしているのは、ちゃんとした理由がないと大統領に戦争などさせてくれないってことだからな。サウジの宗教的過激派の手によってニューヨークが攻撃されたと偽装しなきゃ、メディア、産業界、軍に、世俗的国家であるイラクの侵攻をどうやって認めさせる? いや、やつらは乗ってこないな。ヴェトナム、前回のイラクコソボ入りするのに、どれほど大変だったか見てみろ。

チェイニー:まったく!

ラムズフェルド:よし、もう十分だ。統合参謀本部、連邦航空局、ニューヨークにワシントンD.C.、消防局、ルディ・ジュリアーニ、三大テレビ局全部、架空の定期航空便犠牲者千人の家族、MI5、FBI、FEMA、NYPD、ラリー・イーグルバーガー、オサマ・ビンラディンノーム・チョムスキー、その他計画実行に必要な5万人に電話だ。一刻も無駄にはできんぞ!

ブッシュ:こないだの選挙で100万ドルを寄付してきたウォール街の大物連中全員にも電話を忘れるなよ。複雑怪奇、知能指数ゼロの現代版議事堂火災計画の一部として処刑対象になったと知ったら、やつら喜ぶぞ! まったく、殉死者を用意しなきゃならないなら、選挙の集金係以上の適役はないよな。メリル・リンチのやつら、ニューヨークのオフィスを改装したいって言ってたな?

ラムズフェルド:ああ、改装できるでしょう、間違いなくね。「ビッグ・ウェディング」にきっかり間に合いますよ!

三人:(高笑い)ムワッハッハッハ!

 何を言いたいかわかったろう。こういうたわごとはまったく意味を成さないのだ。独裁的権力を握る言い訳が必要なだけなら、なぜシャンクスヴィルの飛行機墜落を偽装する? 爆弾を使うなら、なぜハイジャックを偽装する? なぜリモートコントロールされた飛行機を使う? もし政府機関全部が悪巧みに加担しているなら、なんでいちいちこんなひどい手間をかける? 1年後、この攻撃に責任があると(誤った)非難すらされていない国と戦争するためにか? 〈9/11の真実〉の言い伝えでこうした点が探られているのを自分は見たことがない。というのも、彼らが描く“陰謀”は何から何までありえなさすぎて、ザッカー兄弟の映画でもなければ不可能だからだ。思いつきとしては信じがたいほどバカげており、無意味にこみ入っていて、細部はやりすぎなのに、完璧に実行され、具体的な証拠は何一つ残らず、数万の人間が彼らの役割について秘密を永遠に守る、なんてのは。

 われわれは、ブッシュの無数の共謀者たちは誰一人として、うっかりして本物の犯行の証拠を残したりしなかったと考える必要がある。だからこそ、ドキュメンタリー映像作家の三脚がタワー崩落前に揺れていたことなどから、この大犯罪を演繹しなくてはならない(ほら、あの揺れをみなよ──大統領と数万の仲間が仕掛けた爆弾にちがいない!)。リチャード・ニクソンはブッシュの百倍頭が切れたが、それでも1ダースの緊密な同盟者のなかから、リークや、苛まれたニセの良心の叫びが飛び出してくるのを防げなかった。だが、9/11陰謀論によれば、犯行現場を封鎖した最下級のFBI捜査官までもが、一言たりとも秘密を洩らさないというのだ。馬鹿馬鹿しい。

 『ルース・チェンジ』の作者ディラン・エイヴリーのような〈9/11の真実〉運動のリーダーに要求する。主張している計画──バラバラの寄せ集めではなく、まるまる1つのまとまった話として──の詳細で完結した概要を考え出してみろ。どんな5年生の子どもでも、笑いすぎで腹筋がぶっこわれないようなやつをだ。それができなきゃ、残りは全部たわごとだ。ネス湖の怪物の存在を証明する「ソナー証拠」と同レベルだ。もし科学的不可能事のもろもろを意味のある話にまとめられないなら、おまえがやってるのはオナニーもいいとこだ。そして、インターネットでそういうことをやったのはおまえが初めてじゃない。

 9/11陰謀論者を却下することにすると、すぐ非難が飛んでくる。おまえはジョージ・ブッシュの手助けをするのかという叫びで、インターネットはいっぱいになる。おれはそうは思わない。自分にとって〈9/11の真実〉運動とは、それ自体がジョージ・ブッシュアメリカに表れた病理の典型例なのである。ブッシュが大統領を務める国は、パラノイアにかかった分解不能のいくつもの部族に手の施しようもなく分かれてしまった。そして、これら部族の1つがたまたまブッシュ自身の政府なのだ。これら部族には共通点がある。それぞれが島のように孤立した運動であり、巨大な情報の市場から好ましい証拠を選り分けて自分たちだけの現実を作りあげ、同類でない者の人間性に激しい疑いの目を向け、自分たちの運動の凡才を偉大なる思想家、功績者としてむやみやたらと褒め称える。インテリジェント・デザインのグループに数知れぬアイザック・ニュートンたちがいるように、〈9/11の真実〉運動にも無数のトーマス・ペインたちが存在する。

 シーン・ハニティの信奉者がリベラルはテロリストと変わりないと信じるのと、〈9/11の真実〉派の人間が最下級の兵士や連邦航空局やNORADの一般職員ですら冷血な大量殺人鬼であると信じるのと、この二つのあいだには心理上大して差はない。どっちのばあいでも、部族内のくだらないたわごとが幅をきかす私的世界にどっぷりはまりこんでいる。おそらく、ほとんどの人にとってアメリカは大きく複雑になりすぎ、もはやその一員として振る舞えないのかもしれない。もっと小さな、もっと間の抜けた現実を人々は求めてやまない。ブッシュのように、パッケージ済みのヴァージョンを売るやつもいる。ほとんど何もないところから自分たち専用のを作り出すやつもいる。かんべんしてくれ。

*1:例えば、http://www.patriotsquestion911.com/

*2:MainStream Mediaの略。まあ「マスゴミ」みたいなもの。恥ずかしい言葉を書いてしまった……。

*3:wikipediaのエントリを参照。

*4:『レフト・ビハインド』の作者。詳しくは高橋ヨシキ「悪魔の映画史 第一回」を参照。

*5:右派のトークショー・ホスト。ラジオや、フォックス・ニュースの討論番組Hannity and Colmesの司会などを務める。